AIRWAVE

• 09/21/14:33

　ここはニューヨークのようなビルがたくさん建ち並ぶ大きな街。大都会の喧噪。道ゆくたくさんの人々。皆それぞれの道を歩いている。
　そんな中一人の男が歩いていた。男はめずらしく定時で仕事を終え、家でゆっくりしようと自宅へと歩を進めていた。

　地下鉄の階段を駆け上がり。道に出ると、人の流れの中に溶け込む。少し進んだ所で男はハッと一瞬目を奪われた。自分の側を昔大好きだった人に似た人が通り過ぎて行った気がした。
　チラりと後ろ目で、一瞬その姿を追う。人ごみの流れに乗って、少しづつ離れて行くその姿。イメージは大分変わったが、多分彼女であろう。彼は歩を進めるのを止め、ふと空を見上げた。

　曇天の空。ゆっくりと流れて行く、灰色の雲。頭の中をいくばくかの思いが駆け巡る。
確かに昔は彼女の事が大好きだった。片想いではあったが。本当に好きだったと。今でもいくらか気持ちは残っているかもしれない。今彼女と話せば、また何か感じる可能性もあるだろう。

　だが追って、声をかける気にはなれなかった。そこまで自分からどうこうという程の、気持ちも沸き上がって来ないし。何より自分の気持ちがよく掴めなかったからだ。

　この気持ちはなんだろう？平坦な気持ち。一見何も感じていないような感覚。でもその奥で何か大きなエネルギーが脈打つ感覚がある気もした。なんとも言い表しようの無い感覚だった。
　そしてそれはもうすでに過去の過ぎ去った事のような気もした。今更またそれを掘り返すのか？とも思った。

　彼はそこで思考を停止した。そしてまっすぐ前を見つめ、自宅へ向けて再び歩き出した。それ以上考えていても、どうしようも無い気がしたからだ。今は前だけを見て進もうと。そう思った。

• 06/09/02:22
• 小説
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